
袖を伸ばしたコート。
吹き抜けていく風が肌をきりつける。
空を見上げれば、くたびれたフード。
ふせめがちな姿勢でも影を目にする事はない。
スイスアルプスに動きを遮られた雲の集団は、
この季節の北イタリアならではのワンシーン。
カプチーノが画になるシーズンは、
いやでもしばらくは続く。
ミラノから小一時間かけてやってきた静かな風景。
先が見えなくなりそうになりながらも、
何かを避けるようにして足早に歩く。
クレモナの街を歩いていると、
どこからともなく微かに聞こえてくるカンナの音。
でも僕がつられたのはクラシックのCD。
そしてそれに合わせる鼻歌。
「Vieni! (おいで!)」
窓越しの笑顔が呼び止める工房。
そこにはクレモナ訛りのイタリア語を話す Pancione。
がたいが良く、人なつこく話しかけてくる様は、
田舎のあんちゃん。
懸命に作業をしていると思いきや、
曲に合わせて手を動かし、
僕のことをいろいろと訪ねてくる。
北イタリアの人は南の人に比べれば Chiuso、
社交性が薄いと言われるが、
クレモナも郊外出身の彼は、
純朴な青年がそのまま大きくなった感がある。
「今夜は魚を食べる。いいか? イケダ!」
しゃべりながらも手の動きは速く、
そして体格の良さからくる力の入れ方は、
見ているだけでもすごい。
楽しそうに仕事を進める彼の目からは、
リラックスの中にも真剣な表情が垣間みられる。
弦楽器の中でもコントラバスに強い彼は、
世界の中でも指折りの製作者である。
技術的なことは僕が言うまでもなく素晴らしい。
職人というポジションでありながら、そこに没頭しない。
広い視野で人との関わりを楽しんでいる。
コントラバス職人の集まりをまとめたり、
合唱団で歌ったり、オーケストラで弾いたりする。
音楽そのものが好きで楽しんでいる。
そんな彼が作るものは、
プレーヤーにも喜ばれ、観客にも喜ばれる。
彼の音が響いてくる。
それは単純でわかりやすい。
どこにでもいそうな人の良さ。
生み出されるものの中に宿っているもの。
マルコならではの香りが漂う工房で、
安らぎにも似たものを感じる。
北風の地方であり、
太陽のある場所でもある。
イタリアらしい「光」を楽しめる。
そこは僕のお気に入り。
Marco Nolli liutaio in Cremona
http://www.nolliviolins.com/
sognando di giorno
バイオリン内部
コントラバスのブリッジ
上:ニス塗り / 下:バイオリンの固定
クレモナ・ドゥオーモ
混沌とした作業台
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Takeshi Ikeda イタリア在住 1972年生まれ。 「人生アート」を標榜し、個人で映像製作しつつ舞台役者もこなすようになる。 2000年、交流団体「CRAZY RUNNINGS」を主宰する一方、劇場公開映画のオーディションにパス、2001年、撮影監督として世界一周をしつつ映画製作し、地球一周ロードムービー「ON THE BOAT」が全国公開される。 その後、単身イタリアに渡り、2003年からドキュメンタリー映画「GLI ARTIGIANI」の製作を始動。文筆、写真、プロデュース方面でも活動している。現在、ミラノ在住。 ブログ http://www3.plala.or.jp/smiles/ |